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2011-05-11

タイガーマザーの育児

Twitterで拾った、アメリカで物議を醸したエイミー・チュア(Amy Chua)の中国式スパルタ教育についての記事。「タイガーマザー効果はあるか」という原題だが、活動時間を極端に偏らせればその影響(効果?)が出てくることは当然。人種ごとの生活時間の内訳のデータを用いてそのあたりを跡づけているところが、少し目新しいか。著者はカリフォルニア大学サンディエゴ校経済学部のヴァレリー・ラミー(Valerie A. Ramey)博士。

Is there a tiger mother Effect? Time Use Across Ethnic Groups

2011年は中国の暦では「うさぎ年」だが、「タイガーマザーの年」としてのほうが有名かもしれない。1月初旬に、ウォールストリート・ジャーナル紙はエイミー・チュアの「中国の母親が優れている理由(Why Chinese Mother Are Superior)」と題された記事を掲載した。この記事はチュアの新刊「タイガーマザーの闘争賛歌(Battle Hymn of the Tiger Mother)」の紹介である。この記事と本はチュアの極端な子育て法に関して議論を呼び、ダヴォス・サミットでラリー・サマーズ(Larry Summers)*がその議論についてコメントしたほどだった。

*訳注 Larry Summersは、アメリカの経済学者で、クリントン政権の財務長官、ハーバード大学学長、オバマ政権の国家経済会議委員長などを務めた。

写真:ヴァレリー・ラミー

チュアはイェール大学の法学教授で、自分の娘たちを「中国の伝統的な」、厳しい規律と学業における成功の強調を最優先とする方法で育てた。彼女は、娘たちに勉強とピアノやヴァイオリンの練習に時間を費やすよう求める一方で、テレビを見たりコンピュータゲームをしたり遊びに出かけたり外泊したりすることを禁じた。

チュアの本は、アジア人の学業での成功についての固定観念ゆえに衝撃を与えた。最近の生徒の学習到達度調査(Program for International Student Assessment)での学業成績は、上位5か国のうち4か国がアジアの国々である(フィンランドが唯一非アジアの国だった)。カリフォルニアでは、アジア人は高校卒業生の12%だが、カリフォルニア大学入学者の3分の1、カリフォルニア大学サンディエゴ校の全学部入学者のほぼ半分を占めている。

アジアの子育てがこの学業上の成功の理由なのかどうか、という疑問が自然に湧いてくる。アジアの子どもたちは他の民族の子どもたちと比べて勉強や音楽の練習にたくさんの時間をかけているのだろうか。アジア人の親は子どもの学業上の成功を高めるためにより多くの時間を費やしているのだろうか。

これらの疑問に答えるために、私はアメリカ時間使用調査(the American Time Use Survey)のデータを詳細に分析した。この連邦政府の調査は2003〜2009年に、数千人の個人の時間の使い方について、最も正確な時間使用の測定法と考えられている時間日誌法によって測定されたものである。これは15歳以上の個人のデータを含んでおり、私はティーンと両親の時間使用に注目する。

高校生の勉強時間


図1 高校生が宿題をする時間

図1は、アジア人の高校生が実際に多くの時間を勉強と宿題に費やしていることを示している。棒グラフは、全日制高校の生徒が年間に勉強と宿題に費やした時間の週あたりの平均を示している。平均的な白人(非ヒスパニック系)生徒は週あたり5.5時間であり、ヒスパニック系と黒人(非ヒスパニック系)の生徒はもっと少ない。それに対して、アジア人の生徒は週に13時間という途方もない勉強時間である(それも夏休み期間も含んだ平均なのだ)。さらに、少なくとも両親のどちらかが大卒であるサンプルに限るとその差はもっと大きくなる。すなわち、両親の教育水準ではこの大きな差を説明できない。

この勉強時間の差は、合衆国とアジア諸国の違いを反映している。例えば、1991年にJournal of Economic Literature紙で、JusterとStaffordは日本の高校生の勉強時間がアメリカの生徒よりも有意に長いことを示した。

高校生が他の活動に費やす時間

アジア人の生徒がそんなに長い時間勉強しているなら、彼らは何をあきらめているのだろうか。表1は他のいくつかの活動に費やす時間を示している。平均的なアジア人高校生はチュアの娘たちとは似ても似つかないように見える。とくに、彼らは音楽の練習や演奏にほとんど時間を使わず、テレビを見たりコンピュータゲームをしたりするのに時間を使っている。その一方で、アジア人はスポーツや社会的活動に費やす時間がどの人種集団よりも少ない。だが、最大の違いは、仕事に費やす時間である。白人生徒は平均で週に5.8時間だが、アジア人生徒はたった2.4時間だ。つまり、白人と比べて、アジア人は社会的活動、スポーツ、仕事に費やす時間が短く、勉強とコンピュータゲームに費やす時間が長いように見える。

表1 高校生の過ごし方の週あたり平均時間











活動アジア人白人黒人ヒスパニック
勉強する13.0*5.63.4*4.6*
音楽の練習や演奏1.31.31.11.0*
テレビを観る13.613.717.6*15.6*
コンピュータ
(ゲームその他の余暇利用)
8.5*5.65.04.7
スポーツ3.4*5.16.04.8
社会的活動5.2*7.77.58.1
家事4.65.94.4*5.6
仕事2.4*5.84.1*3.1*

*は平均値が白人のものと5%水準で有意な差があることを示す。

大学生の時間


図2 大学生が宿題をする時間

このようなアジア人の生徒たちは、タイガーマザーの支配から一旦逃れても勉強し続けるのだろうか。この疑問に答えるために、フルタイムの大学生の勉強時間を図2に示す。大学生ではそう極端に大きな差ではないが、それでもアジア人の学生の勉強時間は長い。アジア人学生は週あたり15時間を超えているのに対し、白人学生では10時間ちょっと、黒人とヒスパニックの学生は更に少ない。

母親の時間
チュアの「ウォールストリート・ジャーナル」の記事を最初に読んだとき、私は「そんな特別な育児をする時間がイェール大学の法学教授にあるのか?」と不思議に思った。私とギャレイ・ラミー(Garey Ramey)の論文「ちびっこレース(The Rug Rat Race)」はブルッキングス研究所から去年刊行されたが、そこでは学歴の高い親が子どもと過ごす時間が1990年代初めから年々劇的に増加していることを示した。平均的な白人の大卒の親でも、子どもの世話と活動の管理に膨大な時間をかけている。アジア人の親はもっと多くの時間を費やしているだろうか。

表2 母親が使う週あたりの時間





アジア人白人黒人ヒスパニック
子どもの教育活動1.9*1.51.3*1.3*
すべての育児14.114.411.0*11.3*

*は平均値が白人のものと5%水準で有意な差があることを示す。これらの平均は家族構成、年齢、母親の学歴と婚姻状況で対照している。

表2は、人種ごとの母親の時間の過ごし方を、本を読んでやる、勉強を教えるなどの子どもの教育活動の時間と、育児全体の時間に分けて示している。これらの平均は、子どもの人数と年齢、母親の学歴と婚姻状況で対照している。これを見ると、アジア人の母親はやはり教育活動により多くの時間を費やしているが、白人の母親より週あたり30分長いにすぎない。育児時間全体で見ると白人とアジア人の母親に差はなく、どちらも黒人やヒスパニックの母親よりも長い時間を使っている。

つまり、これらのタイガーマザーは、自分の時間をより多く費やすことなしに、子どもにより長時間勉強させることができるようだ。おそらく、これはチュアのいう「中国人の規律」のおかげなのだろう。

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  • 北海道地方の大学教員